ユグノーの書庫

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 私がまだ、小学生の頃だっただろうか。夏休みに入り、私は公園のベンチに座っていた。
 他の子供たちはサッカーをしていたり、追いかけっこをしていた。
 それをぼーっと眺めていると、体を一匹のアリが上ってきた。
 私はアリをつまみあげると、
「ありさん。あなたをしょっかくはずしのけいとします」
 と、おもむろにアリの触覚を抜いた。
 ベンチの上に置くと、アリは手のひら大の円を描いてくるくると回っていた。
 くるくる、くるくる、くるくる、と。
 それを見ていると、何かが満たされるような気がした。
 それは、優越感だったのか、幸福感だったのか、それともただの快感だったのだろうか。

 時が経ち、私は念願であった裁判官になることができた。
 私は生まれて初めて、人に対して刑を言い渡す。
 ぞくぞくとする興奮が徐々に私を満たしていくのがわかる。
 私は冷たく言い放つ。
「主文。被告人を死刑に処す」
 灰色のコンクリートに囲まれた室内に、声がこだまする。
 これほどまでの快感を得られたことが今まであっただろうか。

 私は、斧を手に取ると、死刑囚の首めがけて振り下ろす。

 気づくと、私は、広いホールの中に居た。
 左手からは、誰かの泣き声が静かに聞こえる。
 右手の壇上から黒い服を身にまとった人が言う。
「主文。被告人を死刑に処す」