ユグノーの書庫

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骨董品の愛

「綺麗だね」
 跪き、君の頬に優しく手を添え、口付けをする。
 こんな陳腐な台詞にも、君は僕に微笑みの愛撫を返してくれる。
 これほど絵になる空間はあるだろうか。
 骨董価値のある棚や机、絵画が気品良く並べられ、椅子に女が腰掛けている。
 それを天井から下がる蝋燭が優しく照らしている。
 僕が立ち上がり、窓のカーテンを開けると、満天の星空が僕たちを照らす。
「ほら、神様はなんて優しいんだろう。こんなにも、僕たちを祝福してくれているよ」
 両手を広げ、歌うように僕は言う。
「僕はサファイヤを超越した君の瞳を愛している。僕は、人の心を掴んで放さない艶かしい君の唇を愛している。僕は、今にも目を焼き尽くさんばかりの君の金色の髪を愛している」
 君は僕を見つめ、微笑んでいる。
「僕は君の全てを愛している。内から外、その周囲に至る全てを、だ」
 君は僕を見つめ、微笑んでいる。 
「僕の全てを君に捧げようともかまわない。だから、僕の全てを受け取って欲しい」
 君は僕を見つめ、微笑んでいる。
「たとえ、君が何も言わなくても、僕はわかっているからね」
  君は僕を見つめ、微笑んでいる。
「たとえ、君が息をしていなくても、僕は感じているからね」
 君は僕を見つめ。微笑んでいる。
「また、明日も来るからね」
 君は僕を見つめ、微笑んでいる。
 君は僕を見つめ、微笑んでいる。
 君は僕を見つめ、微笑んでいる。

 たとえこの椅子に座る女が腐っていく途中であるとしても、彼の愛は揺るぎなく、どこまでもまっすぐで、それ故に、歪んでいた。