ユグノーの書庫

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女科学者

「動くな」
 男が淡々とそう脅すと、懐からリボルバーを取り出し、照準を女の頭に固定した。
「何が目的なの?」
 女は眼鏡を直し、問い掛けた。
 リボルバーを構えた男がそれに答える。
「お前の体。だったら俺も楽しめたんだが。あいにくそうはいかなくてな」
 男は女の金髪を舐めるように見ると、下劣な笑みを浮かべた。
「どういう意味?」
 さらに問い掛ける。
「お前を始末するようにとの上からのお達しだ」
「そう。ばれちゃったんだ」
 男は照準をそのままで頷いた。
 それを見た女は悟ったように抵抗をやめて両手を上げた。
「仕事なんで恨まないでくれよ」
 そう言うと、その男は発砲した。
 だがその弾が女に当たることはなくキンという硬質な音を響かせて、あさっての方向へ弾かれていった。
「な、ん、だと?」
 男は驚きの表情を隠せないようだった。
「あら。ごめんあそばせ。ここは私のテリトリーなの。色々と仕掛けがあるのよね」
 ここは女の私的研究所なのだ。とある組織から資金提供を受けて研究していたが、その金の出所が気になり、調べていたところだった。
「てめぇ!」
 男は憤りをあらわにし、弾をもう一発放った。
 だが、やはり見えない何かに当たって弾かる。
「無駄よ。そこにあるカメラが高速の物体を捉えると、その軌道を計算してそれを撃ち落とす形で、カメラ横のライフルが発砲される仕組みになっている」
 女がカメラを指差しながら解説する。
「なるほど。馬鹿が!」
 男はリボルバーを持っていない方の手を腰の後ろに回しもう一挺のリボルバーを取り出した。
「あなたも一応馬鹿じゃないのね」
 女は少し驚いた様子でそう言った。
「一方が弾かれようと、もう一方がお前を貫くぜ!」
 そう叫ぶと、男は二挺のリボルバーを撃ち放った。
 弾が頭を貫き、脳漿が飛び散った。
「あわれね」
 女はそうひとりごちると倒れた男の元へと歩み寄った。
「仕掛けがあれだけなはずないでしょう。私のスイッチ一つで警備体制が最大になり、私以外の動くもの全てに対して、弾が発射される」
 硝煙が残るライフルが壁一面に顔を出していた。
「もう組織からの資金提供はあてにできないし。組織の情報を手土産に敵対組織に寝返ろうかしら。ふふふ」
 女は不敵に笑うと、お掃除ロボットを呼び出し、その男を排除させた。