ユグノーの書庫
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第四章 ReBellion あの事件から二日ほど経っていた。 八夜は悟の電話により駆け付けた救急車で病院に運ばれた。八夜の通信カードにGPS機能が付いていたおかげで、その位置を特定することができたのだ。 しかし、雨のせいで出血が激しく未だに意識不明の重体である。 心とはあれ以来、会話をしていなかった。 刃は心のことを姉ちゃんと呼んでいた。刃は悟と同じ高校三年生だ。そして心は高校一年生だと言っていた。矛盾しているが心が嘘をついていたとみると辻褄が合う。 悟はそのことに関しては何とも思わない。ネット上で年齢を偽る事なんてごく普通に行われているだからだ。 ただ、心が刃の姉なのだとしたら、悟は直に会ったことがあったのだ。 刃の家に行った時のこと。悟は今でも覚えていた。 そして二年半ぶりに家を出た悟は今、その刃の家の前に居た。 二階建ての和風の屋敷は豪邸と言っていいくらいに大きかった。ただ、以前には整えられていた庭も今は荒れきっており、家の壁には蔦まで張っていた。日はすでに沈み切っており、辺りは静寂に包まれていただけに廃館と表現したほうが適切かもしれない。 悟は眼鏡を直すと、意を決してチャイムを鳴らした。 「はい」 聞きなれた声がインターフォンから発せられた。 「心?」 「悟なの?」 「ごめん、ちょっと」 「うん」 心が家から出てきた。 だいぶやつれた様子で、泣き濡れた跡が頬に色濃く残っていた。だが悟をどきっとさせた泣きぼくろは未だ健在だった。以前は肩までしかなかった黒髪が、今では腰辺りまで伸ばしているようで、清楚な美しさに拍車を掛けていた。 「や、やぁ」 悟はぎこちなく手を挙げた。 「入って」 心は悟を応接室に招き入れた。 悟は上座の座布団に腰をおろした。 「お茶、用意するわね」 そう言って心は悟を残し、キッチンに向かったようだ。 床の間には高そうな壺が置かれ、掛け軸には墨で描かれた山麓がそびえていた。 棚の上にある写真が目についた。仲の良さそうな夫婦と子供が二人。こちらに向かって笑っていた。 「どうぞ」 「ありがとう」 悟は差し出された緑茶をすすった。豊潤な香りが鼻孔を抜け、とてもおいしかった。かつて刃の部屋で飲んだものと同じ味だった。 「久し振りね」 「ええ」 「と言っても、話すのは二日ぶりかしらね」 「そうですね」 「以前会った時よりもだいぶ背も伸びて、追い抜かされちゃったわね」 「中学三年の時以来ですから会うのは三年ぶりになりますね」 「まさかそのときの刃のお友達と一緒のギルドに入ってるなんて思いもよらなかったわ」 「それは俺も同じです」 「私だってもう友達なんだから、敬語じゃなくていいのよ」 と、心は悟に微笑みかけた。 「あ、はい。あ、いや、うん」 「それで、私に訊きたいことがあってここに来たんでしょ」 「えっと」 「刃の事、そうよね?」 「どうして、刃は?」 犯罪を起こすようになってしまったのか。 「復讐」 「復讐?」 「そう。私たち家族を貶めた世間に対する復讐」 心は堰を切ったように話し始めた。 「私の父はジャーナリストだった。特に中東アジアの危険な地域で活動していた。そして、去年、父はそこの武装勢力に拉致され、殺された」 心は顔を歪めた。 そのニュースは耳にしたことがあったが、刃と心の父親のものだとは知らなかった。 「とても悲しかったし、もうこれ以上出ないんじゃないかってくらい泣いた。でも、危険な地域で活動するジャーナリストである以上、父も覚悟していたし、私も刃もそういうものだと諦めた。諦めざるを得なかった」 心は俯き、一旦言葉を切った。 そして、再び話し出す。 「拉致された当初から、マスコミは連日のように家に押し寄せた。母はノイローゼに陥り床に伏せた。そして父が死んでマスコミが去った後も、私は、家を出ることができなかった。誰かに常に見られてるような気がしたから」 そのニュースは連日連夜報道され続けていたのを覚えている。家族に対する取材も相当なものだっただろう。 「通販を使えば、外に出る必要もなかった。ただ何もすることがなかった私はネットゲームを知り、あなたたちに出会った。あなたたちのおかげで私は立ち直ることができた。とても感謝している」 「いや、そんな」 悟はどういう顔をすれば良いのかわからず、こわばった顔にしかならなかった。 「ただ、刃は、母と私をこんな目に遭わせたマスコミを恨んでいた。外に出ては喧嘩で憂さ晴らしをしていた。ただ、ある日を境に帰っては来なくなった」 心は顔を引きつらせ、とても言い辛そうにしていた。 「大丈夫?」 悟は声を掛けた。 「――大丈夫。悟君には刃の気持ちを知ってもらいたいから」 心は顔を上げると悟を見据えた。 「その日、母の携帯にメールが届いた。そこにはただアドレスだけが貼られていた。母は不審に思いながらも、そのアドレスにアクセスした。父が殺された時の動画がそこにあった。それを見た母は首を吊って死んだ」 死してなお、辱められる。その苦しみは想像に難くない。 「刃はその動画がネット上で出回っていることを知り、そんなこの世を恨んだ。私もあなたたちに出会っていなければ同じことをしていたか、自殺していたかもしれない」 心の目から涙が一粒零れ落ちた。 それを手のひらで受け止めると、 「私にもまだ流せる涙が残っているのね」 と、心は少し驚いている様子だった。 心は手で頬の涙を拭い去ると、 「でも、もう大丈夫。刃を止めましょう」 と、真剣な面持ちで告げた。 「ああ」 悟は心に気押されないように、真正面から心を捉えた。 決意を新たにした二人はこれからの話に移った。 「掲示板、見た?」 悟は訊いた。 「何のこと?」 心は短く返した。 「何って、予告だよ、予告」 「だから、何のことよ?」 心はきょとんとした顔で言った。 「今までの事件も掲示板のスレッドに予告があっただろ」 「そんなスレッド、私は知らないわよ?」 確かその掲示板は心がテトラオンライン内で教えてくれたものだったはずだ。 「どういうことだ」 「私に訊かれても」 あのココウェットは心ではないということ。つまり、それの意味するところは、一人しかいない。 「刃だ」 「そんな」 「刃は、心の目を盗んでは、心の振りをして俺たちと会話をしていた」 「私たちは、あんなことがあってから心を許せるのはお互いだけになっていたし。たまに私の部屋にやってきても何とも思わなかった」 「そういうことか」 悟は合点が行った。 「事件の起こった場所は新宿、浜松、名古屋」 「私たちの、ギルドメンバーの、近く」 「新宿は――」 「母の実家が近くにある」 「なるほど」 悟は頷いた。 「そういえば、八夜は大丈夫なの?」 心は心配そうに訊いた。 「まだ意識は戻らないらしい」 「そう」 心は沈痛な面持ちだった。 「次こそは止める。刃は次こそ誰かを殺すつもりだ」 予告にはこうあった。 326:レインボーブルーム『第四回怪盗予告 日時:十月十四日午後十時 場所:京都 標的:首』 心は息を呑んだ。 「予告によると、次の犯行は今日午後十時、京都」 「ここじゃない!」 「そう。だから俺はこの場所に来た」 今まで引きこもっていた悟が、この家までやってきた理由がそれだった。 「刃が京都で犯行を行うなら、ここに立ち寄ることもあるだろうと、俺は思った」 「そして俺はここにいるわけだ」 「刃!」「刃!」 二人はびっくりして叫んでいた。 ふすまを開けて立っていたのは虹色の髪をした男、刃だった。 二人は立ち上がると、 「いつからそこに?」 と、心が訊いた。 刃はそれには答えず、 「俺の計画とも言えないただの戯れが、こうもうまくいくとは思わなかったよ」 と、乾いた笑みを浮かべた。 「どういうことだ?」 と、悟は静かな声で尋ねた。 「俺は姉貴を誑かしていたギルドの奴らが嫌いだった。掲示板のことを伝えれば、動き出す奴もいるだろうと考えた。もしかしたら、標的になってくれるかもしれない」 「俺たちはまんまとおびき出されたということか」 「言っただろ? ただの戯れだって。別にお前たちじゃなくても良かったんだ。ただ、まさかその中に悟がいるとは思わなかった」 「くぅ」 「お前、スナッフフィルムとか見たことあるか?」 悟は押し黙った。 「グロ動画なんて、ネットにはごろごろ落ちてる。ただの興味本位で見る奴もいれば、そういうのでヌけちゃうおめでたい奴らまでいるのさ。ただ、それが自分の父親のものだったら?」 刃はニヤっとした。 心は顔を背けた。 悟は何も返せなかった。悟もそういう動画を見たことがあったのだ。 「リアルでは善人面してても、ネット内では人間の暗部がさらけ出されている。腐ってるよなあ。こんな世の中」 「だからと言って!」 悟は怒鳴った。 「悟」 刃はおどけた様子で名前を呼んだ。 「どうして引きこもりになった?」 「くっ」 「思い出させてやろうか」 刃の下卑た笑みが悟の逆鱗に触れた。 「やめろ!」 悟は刃に詰め寄ると、襟を掴み上げた。 「進学校に行き、学年トップだったお前は一人でいることを気取っていた。そのせいで、そこの馬鹿な奴らの恨みを買い、リンチされた。そして、その時に撮られた全裸写真はネット上にばら撒かれた」 悟はずるずると刃にもたれかかった。その拍子に眼鏡が外れた。 「悟。俺たちは今でも親友だよな?」 刃は悟を抱き寄せた。 「悟なら俺の気持ちもわかってくれるよな?」 刃の心から悟の心に憎悪が感染してくるようだった。 不意に乾いた破裂音が悟の耳に響いた。 「目を覚まして!」 刃の頬が赤くなっていた。 「それで、お父さんが救われる? お母さんが救われる?」 「姉ちゃん――」 「それとも私が喜ぶとでも思ったの?」 刃は押し黙った。 「それに親友だったら、昔の傷を抉るような真似、しちゃいけないでしょう?」 心は必死に諭そうとした。 刃は答えない。 「前の優しかった刃に、戻ってよ」 と、心は刃の肩に手を置き、願った。 二人は数秒、目と目を合わせた。お互いの意思がその間を交錯しているようだった。 先に目を逸らしたのは刃の方だった。刃は悟を優しく床に座らせると、 「もう、無理だよ」 そう言って、走り去ってしまった。 「刃! 待って!」 その叫びは刃には届かなかった。 心は落ちていた眼鏡を拾うと、悟を抱き起こし、その眼鏡を掛けてあげた。 「悟、しっかりして。今は私がいるでしょう」 心は悟の目を見据えて励ました。 「心……」 悟は落ち着きを取り戻した様子で言った。 「ごめん。俺はもう、前みたいな俺じゃない。もう大丈夫。俺には心もいるし、ギルドのみんなもいる」 「うん」 「刃を追いかけよう」 悟は心と共に駆け出した。 家を出ると、遠く向こうにバイクに乗った刃の後ろ姿が見えた。虹色の髪が風になびいていた。 「くそっ!」 悟は足で地面を蹴った。 「刃の行く場所ならわかる」 「なんだって?」 「あの方角にはお父さんとお母さんのお墓がある」 「確かにそこなら誰にも邪魔をされずに犯行を行える。でも、そんな場所、俺たちにすぐばれるじゃないか」 「刃は、たぶん、私たちに止めて欲しいんだと思う」 「刃……」 悟と心はバスに乗り、その霊園へとたどり着いた。 夜の墓地は静まり返り、幽霊でも出そうだった。だが、悟は幽霊よりも人間の方がよっぽど怖いことを知っていた。 少し奥まで歩くと、古ぼけた社の前にバイクが止められているのに気が付いた。 二人はその社の前まで行き、その戸を開ける。 ろうそくの明かりが室内を照らしていた。 優馬が仰向けになり、床に張り付けられていた。口には猿ぐつわがされているようだ。 そして、その隣に刃があぐらをかいでいた。 どうして優馬が、という疑問をよそに、刃が話しかけてきた。 「遅かったじゃないか」 「刃」 悟はそう言うと刃に歩み寄ろうとした。 「おっと、それ以上近寄ると、こいつの命はない」 刃の右手には斧が握られていた。 「くっ」 悟は動けなくなった。 「刃、いい加減にして」 「姉貴は黙ってて」 睨まれた心は言われた通り黙るしかない様子だった。 「今どきはすごいよな。こんなSMグッズも通販で簡単に手に入るんだもんな」 「いい趣味だな」 「ははは、これが女ならもっと良かったんだがな」 と、刃は足で優馬を突いた。 優馬は身動きを取ろうとしているが無理そうだった。 「それでだ。少しゲームをしようか」 「何だと?」 「簡単なゲームだ。これから携帯であのスレッドにこの場の状況を書き込む。そしてどうすればいいのかをアンカー指定して訊く」 「ふざけるな!」 「おぉっと、余計な真似をしたら、レスに関係なくこいつの首が飛ぶことになるぞ」 「くそっ」 「これは俺とお前のゲームなんだ。悟も書き込んでいいんだぞ。せいぜいがんばってこいつを助けてみな!」 刃は携帯電話で優馬の写メを撮ると、スレッドにレスを打ち込んでいるようだった。 悟も携帯電話をポケットから取り出すと、件のスレッドにアクセスする。 684:レインボーブルーム『今回は趣向を凝らし、これからどうすればいいのかをアンカー指定して皆に委ねようと思う。今の状況は画像参照。まずは>>700』 「こんなものかな」 刃は凶悪な顔を悟に向けた。 悟はタイミングを見計らうために何度も画面を更新する。 予告の噂が広まっているのか、以前よりもレスの付きが早い。 685:名無しさん『なにこれw』 686:名無しさん『張り付けられとるw』 687:名無しさん『ネタだろ?w』 688:名無しさん『いや、今までの予告もその通りになってるし、本物じゃないか?』 689:名無しさん『マジおもしれーーーw』 690:名無しさん『さっさと殺せw』 691:名無しさん『いやいや、殺しちゃったらつまらんでしょ』 692:名無しさん『爪でもはがすかw』 693:名無しさん『男か、ツマンネ』 694:名無しさん『ksk』 695:名無しさん『ksk』 696:名無しさん『全裸うp』 697:名無しさん『ksk』 698:名無しさん『殺せ』 699:名無しさん『二人キス』 700:名無しさん『まずはタバコの火を押しあてる』 701:名無しさん『解放しろ』 悟のレスは七○一。一レスずれていた。 「まあ、初めはこれくらいかな」 刃はポケットからタバコを取り出すと、口にくわえ火をつけた。 「ふぅー。うまいなぁ」 紫煙が立ち上る。 「さてと、ほい」 刃はおもむろに優馬の首に火を押しあてた。 「うっぐぁ」 優馬のくぐもった悲鳴を聞き、心は目を背けた。 刃は薄く笑っていた。 「さて、次行こうか」 刃は優馬の写メを撮ると、レスを打ち込みだした。 悟はこのままではまずいと、頭の中で策を練った。 721:レインボーブルーム『次>>750』 722:名無しさん『うお』 723:名無しさん『火傷の跡がw』 724:名無しさん『まじで、これはやばい』 725:名無しさん『知るかw殺せw』 726:名無しさん『殺せ』 727:名無しさん『殺せwww』 728:名無しさん『だから、もっと徐々にだな』 729:名無しさん『いいじゃん、死体見たいもん』 730:名無しさん『殺せーーーーーー』 レスの流れが浮ついている。やはり、ネットであるが故に、皆現実感を失っているのだろう。 ならば、と悟はレスを打ち込んだ。 731:名無しさん『この男性がお前らの父親だったら』 732:名無しさん『まさか』 733:名無しさん『なわけあるかw』 734:名無しさん『あっちで寝とるわw』 735:名無しさん『親父ピザだしw』 736:名無しさん『仮定の話をしてるんじゃないか?』 737:名無しさん『嫌いだし、むしろ死んで欲しい』 738:名無しさん『死ねばいい』 739:名無しさん『士ね。むしろ死ねw』 刃は笑っていた。 「くっ」 悟は焦燥を隠しきれなかった。 740:名無しさん『@10』 741:名無しさん『ksk』 742:名無しさん『ksk』 743:名無しさん『ksk』 744:名無しさん『ksk』 745:名無しさん『ksksk』 746:名無しさん『ksg』 747:名無しさん『ksk』 748:名無しさん『殺せ』 749:名無しさん『殺せ』 750:名無しさん『徐々につってるだろ。手首切断』 751:名無しさん『解放しろ』 752:名無しさん『殺せ』 753:名無しさん『偽善者湧いてるw』 754:名無しさん『安価取れてねーしw』 755:名無しさん『安価とるのうめー奴がいるからな』 「了解」 刃はそう言うと斧を振り上げた。 「やめろ!」 悟は刃を止めようと駆けだしたが、刃の足がみぞおちを捉え崩れ落ちた。 「悟に荒事は向いてない」 刃は振り上げていた斧を優馬の右手首めがけて振り下ろした。 「ぎぐぁあああああ」 優馬の悲鳴が響き渡る。 「刃、お願いだから、もうやめて!」 心は泣き叫んだが、 「姉貴は黙れ」 と、冷たくあしらわれ、二の句が継げなかった。 「次のターン行こうか」 刃は優馬の体と切り落とされた手首を写メに収めると、次のレスを打ち込んだ。 823:レインボーブルーム『次>>850』 824:名無しさん『フェイクじゃない……よな?』 825:名無しさん『マジにやりやがったw』 826:名無しさん『もうやめた方がいいって』 827:名無しさん『いいじゃん、ここまで来たらもう殺せって』 828:名無しさん『でも、やばいって』 829:名無しさん『殺せばいいと思うよ』 830:名無しさん『女だったらもっとおもしろかったんだけどな』 831:名無しさん『確かにw』 悟は流れを変えるためにレスをつける。 832:名無しさん『愛する人がこんな目に遭っても同じことを言うのか?』 833:名無しさん『彼女いなくて悪かったな』 834:名無しさん『童貞乙』 835:名無しさん『でも、ちょっとこれはやりすぎだろ』 836:名無しさん『怖くなってきた』 837:名無しさん『さくらちゃんがこんな目にあったら制作会社に直訴してやる』 838:名無しさん『オタク乙』 839:名無しさん『それでヌくくせにw』 841:名無しさん『確かにw』 842:名無しさん『もう、いいからやっちゃえよw』 843:名無しさん『あきてきた』 844:名無しさん『もういいよ。死んどいて』 845:名無しさん『殺せ』 846:名無しさん『殺せ』 847:名無しさん『殺せ』 848:名無しさん『殺せ』 849:名無しさん『殺せ』 850:名無しさん『殺せ』 851:名無しさん『殺せ』 852:名無しさん『殺せ』 853:名無しさん『殺せ』 854:名無しさん『殺せ』 855:名無しさん『解放してくれ』 856:名無しさん『殺せ』 857:名無しさん『殺せ』 858:名無しさん『殺せ』 859:名無しさん『殺せ』 860:名無しさん『殺せ』 861:名無しさん『殺せ』 862:名無しさん『殺せ』 863:名無しさん『殺せ』 864:名無しさん『殺せ』 865:名無しさん『殺せ』 866:名無しさん『殺せ』 867:名無しさん『殺せ』 868:名無しさん『殺せ』 869:名無しさん『殺せ』 870:名無しさん『殺せ』 悟の力ではインターネットという強大な力に抗うことができなかったのだ。 一気に付いた『殺せ』の文字が襲いかかってくるような錯覚にとらわれた。 あまりに強く歯を噛みしめ過ぎたのだろう、血の味が口内を占領した。 「ゲームオーバー」 刃はそれだけ言うと斧を思いっきり振り上げて、優馬の首めがけてそれを振り下ろした。 「ぐがぁ」 押し殺した声が口から漏れた。 悟は目を見開いた。 その呻きは優馬のものではなかったのだ。 心だ。 心が刃と優馬の間に滑り込み、その背中で斧を受け止めたのだった。 噴き出した血が刃の顔を赤く濡らした。 「刃……」 心は刃に微笑みかけると、意識を失い崩れ落ちた。 「ね、姉ちゃん」 刃は斧を落とすと、わなわなと震え、心を抱きかかえた。 「なんで? なあ、なんでなんだよ?」 刃の問い掛けにも心の反応はなかった。 「確かにその通りだ」 「悟?」 刃は涙の浮かんだ目で悟を見つめた。 「確かにネット上では人間の負の感情がむき出しになっているかもしれない。それは俺も認める。だがな、それはネットの中だからだ。このスレッドの奴らだって、この場にいたとしたら、同じことを言ったと思うか?」 刃は押し黙った。 悟は心を見ながら言い放った。 「俺は心を見てわかった。このリアルこそが信じられるものなんだ!」 刃の目からはとめどなく涙があふれだし、心の顔を濡らした。 |